振り込め詐欺

投稿日:2013年02月28日

長女が血相を変えて寝室に駆け込んで来たのが始まりである。

 長女が血相を変えて寝室に駆け込んで来たのが始まりである。「お父さん、ヤッチャンから電話…。」
表情がおかしいので「どうしたの?」と私。
「で、電話。」
受話器を受け取った途端けたたましい女性の泣き声(号泣と表現した方がよいかも)で

「わ~お父さん、康子だけど、今事故を起こして、人を引いちゃった。血だらけになって~~。わわ~」
それはもうとても演技とは思えない位の雰囲気で(この時点では本当に康子=三女の声に聞こえた)、半狂乱の様子、さすがにこちらもどっと全身から汗が噴き出しました。

「どうしよう、今から警察の人と変わるから。」と娘。
ちょっと待てよ、俺英語で話されともあんまり分かんないだけどな~(娘は英国のスコットランドにいるのだ)

「もしもし」
(あれ日本語だ。良かった。と本当に思った)

「私、仲宗根(なかそね)といいますが」
(所属を言ったように思ったが覚えていない。沖縄によくある名前である)

「康子さんのお父さんですね。娘さんが借りた車で事故を起こしました。車の持ち主はA.Oさん(聞き覚えのある名前:康子の友人)で娘さんの友人です。」
(泣き叫ぶ娘?の声がまだ聞こえる)

「被害者は小学生の女の子二人で、お一人は(ここで少し沈黙、嫌な予感そして沈痛な声で)搬送先の病院で亡くなりました。そしてもう一人の方も重体です。これは刑事事件ですので、康子さんは48日間拘留されます。担当の弁護士さんがおられますので変わります。」との事
(ここで担当の弁護士とは?という疑問は浮かばなかった。興奮していたのだろう)

「もしもし、弁護士の兼城(かねしろ)です。」
(これもまた沖縄に多い名前。あれ~また日本語だ。よかった~。でもこの辺からおかしいと思い始める)

「康子さんはこのまま警察に留置されます。本人は取り乱していますので、なるべく早く保釈されるように取り計らいたいと考えています…。」
(二人とも沖縄のなまりがないな)

「何処で事故を起こしたのですか。」
「那覇のコジマです。」
「那覇のコジマ?ああ、古島(フルジマ)ですね。」
「・・・。」

「それでどちらの警察に拘置されるのですか。」
「首里の・・・。」
首里には警察関係の分署はないはずだ。そこでやっとこれが世に言うオレオレ詐欺(振り込め詐欺)だなと感じました。

とたんに周囲の景色が見えてきました。そこには女房と長女が目を見開き、胸の位置で両手を握り合って必死に私の電話応対に聞き入って立っていました。
ちょっと余裕が出たので、人差し指を立て宍戸錠よろしく左右に振りましたが二人の表情は変わりません。その間も弁護士さんの説明が続いています。

私が我慢できなくなって「フフフ・・・。」と笑ったら、突然「プシュ」と音がして電話が切れました。

 泣き叫ぶ女性の声を聞いた時は、それはもう大興奮、頭が真っ白になるとはこんなものでしょうか。女房は明日からイギリス行きだな。貯金もこれでパ~だな、土地建物も売らなくてはいけないかな。などという考えしか浮かばない。ホントに真に迫った演技でした。これで娘がイギリスにいなければ完全に騙されていたかも? 人ごとではないという事を実感しました。

 娘の同級生の名前も出たので、学校の名簿を何処かで入手したものと思われました。

 皆さんも気をつけましょう。

 その後に色々なところから情報があり、振り込め詐欺にも色々なパターンがあるようなので紹介します。

1)海外留学の子息を持つ親に対するものもあるらしい。名簿などを手に入れる方法があるのだろうか。私の場合イギリスからの電話だと言われたら一発で引っかかっていただろう。
2)医局で勉強中のご子息がある場合。医療事故を起こして患者さんを死亡させたという設定。わーわー泣きじゃくる新米医師の息子からの電話「今教授が患者さんを説得している。後で教授が説明するそうだ。」電話が切れ、やがて教授からの電話。「今が患者さんを説得しました。つきましては示談金として~~~」という筋書き。

 こんなにも多くの人が騙されているという事実は我々日本人が肉親の情に重きを置いている証かとも思い、多少感動の念が無いわけでもありません。しかし、このような詐欺の横行により、常にものを疑ってしまう不健康な心理が生まれるようなら、大変な事になるのではと、危惧しています。